2005年10月17日

角田光代「エコノミカル・パレス」

今年4月に角田光代さんにインタビューをするにあたって、2日で8冊も読んだ角田作品。実際にご本人にお会いしてから、すっかり彼女のファンになり、その後も作品を見かけると手に取るようになっていたのですが…

正直言うと、私は角田さんのエッセイにはとても共感を覚えるのですが、小説の方にはいまひとつ馴染めない部分がありました。それはたぶん、20歳で結婚してしまい、まもなく2人の子を出産し、「生活」というものに追われて生きてきた私の生き方と、彼女の作品に出てくる主人公たちの生き方とがあまりにかけ離れているものだったからだと思います。

アジアを中心とする世界の国々に放浪していたり、いわゆるフリーターの暮らしで、きちんと就職していない生活だったり、だけど、何かを探していることや喪失感のようなものが痛いほど伝わって読み手の心をヒリヒリとさせる作品たち。

ようやく本題に入りますが、この「エコノミカル・パレス」は、これまでの作品の中で、いちばん腑に落ちた感のある納得のいく1冊でした。私は本を手に取ると解説から読み始めてしまうクセがありますが、藤野千夜さんの解説がとても素晴らしかったんですね。

ちょっと引用させてもらうと…

「はじめてこの作品を読んだとき、私はそれまで読みつづけた角田作品のあれやこれやが、一大長編となって迫ってくるのを感じ、しかも今まさに閉じられようとしているのだと知っておののいた。本気で。ずいぶん。つまりこの作品は、若者がフリーターでいられた時代と、その中でもがいて来た自作の登場人物たちに、新たな地平をめざす著者が一旦の決着をつけた小説だといえる」

まさに、その通りなんです。今までの作品が全部結びついて一つの長編のように感じられ、収束を迎えようとしている。私の心の中も、すっきりとつじつまがあって、2002年以降の新しい角田作品へと気持ちを新たに進んでいけるような気がしてなりません。

はい、読んでよかった1冊でした(主人公が、ライター<彼女は雑文書きと表現していますが>だったのも、私を引きつける一因だったかも)

エコノミカル・パレス


kyoko0707k at 14:15│Comments(0)TrackBack(0) 本のこと 

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